5月28日のニュース

長いので下に移動した雑記──アイアムアヒーロー

アイアムアヒーロー三巻が発売されました。一人の弱気で鬱々とした男が、ヒーローになっていく物語。相変わらずべらぼうに面白いです。一巻はなんかだまし討ち的なおもしろさだったけど、二巻以降は純粋に絵と物語の表現が素晴らしい。

一巻の凄いところは、主人公の何にもない日常だけで話をほとんど一巻もたせているところだと思う。この「アイアムアヒーロー」という物語が、いったいこれから何を物語るのか、それが何一つ明らかにされないまま、男の日常が淡々と描かれていく。その日常の中に細かい予兆がちりばめられているのだけど、初読で何の情報も仕入れずに読んでいると何が何だかわからないまま驚愕のラストまでいってしまう。

日常だけで話を持たせていると言っても、らき☆すたのようなふわふわとして幸福な日常と、笑えるトークを書いて持たせている訳ではない。一度は漫画家になったが打ち切られ、今はアシスタントをやっているが年齢は35歳……、再度デビューを狙えど編集者からは冷たくされ、年齢のこともあってか八方ふさがり。アシスタントの職場ではキモイ同僚に「一人言をやめろ」とウザがられ、唯一の救いの彼女は前の彼氏の話を嬉々とし、それに強く不安を感じる。

そういう、何の未来もなく、じめじめして、情けない人間の日常が、なぜ読ませるものになっているのか? たぶん、そこにはリアリティがあるからです。リアリティという言葉、私はまだよくわかってないので使いたくないのですが、凄くダメ人間で、絶望的な状況にいる主人公の英雄を見ていると、「自分もこうなるかもしれない」あるいは「こうなっていたかもしれない」とかすかにでも感じてしまう。「自分」を内包している主人公だからこそ、目が離せないのです。

そして最後に訪れる、日常の崩壊。いやあほんと、ここを初めて読んだ時はたまげた。ここで驚かなかった人が、いったい何人いるのだろう? というぐらい。たぶんこれ、展開を普通に予測出来てた人でもびっくりしたんじゃないかな。

というわけで、一巻は「日常に潜む恐怖」がテーマだったわけだけれども、二巻からは「非日常に対する恐怖」がテーマになる。そして三巻では「日常の恐怖と非日常の恐怖」が同時に押し寄せてくる……。怖いですよ、めっちゃホラー。二巻と三巻の感想は明日書きます。